2009年09月05日

ディア・ドクター

見ている途中からいい映画の匂いがプンプンして、見終わった満足感が、ホコホコ体の中からあっためてくれました。
西川美和監督『ディア・ドクター』公式サイト 副題「その嘘は罪ですか」。
演者ひとりひとりが生き生きしていて、存在感があります。
医療問題を問いかけたり、無医村の実態を訴える社会派映画ではありません。

鶴瓶さん扮する過疎の村のニセ医者が、適当なところで逃げ出すつもりだったのに村人に慕われて、ズルズル医療活動を続けているうちに、ある日突然失踪する。

警察が来て、ニセ医者だったことがわかるわけだけれども、非難する人もなく、なんとなくニセ医者とわかっていて、医者として仕立てていたような感じもある。そのうち、刑事も不思議なあいまいさの中に取り込まれていく。「彼をホンモノに仕立てようとしたのは、あんたたちじゃないのか。」なんてつい本音を語ってしまったり、もしかしたら刑事はニセ医者に遭遇したのに、わざと見逃したのかも、と思えるような場面もでてきます。スリリングさとほわ〜んとあいまいな感じと両方が混在する、不思議な展開です。

ニセ医者が赤ひげ先生のようで、神さま仏さまより村人に慕われ熱心に医療活動をします。細やかだったり、おおらかだったり、人の心の機微を知る懐深いニセ医者です。村人の望む医療というのは、そもそも都会の病院で行う高度な延命処置ではありません。でも、助かるものなら切実に助けて欲しい。

こまめに勉強するし、経験豊かな看護師に助けられて、ときには必死にいのちと向き合います。この看護師は余 貴美子さん。日本で一癖ある中年女性を演じさせたら右に出る人はいないそうです。ニセ医者は製薬会社のセールスマンと結託して、しっかりぼろ儲けもやってます。このセールスマンは香川照之。これがまた複雑な内面の面白い役柄です。

本物ってなんだろ?優しさって、共感ってなんだろ?瑛太さん扮する研修医は都会育ちで経営熱心な病院長の息子。いつのまにかニセ医者と知りながら尊敬するようになります。瑛太さんは「表面が軽かったり平べったいやつに限って意外に根っこが深いことがあるから、ぼくはこの役が好きだったんだ」と言ってるそうです。(ほぼ日刊イトイ新聞 - 『ディア・ドクター』のすてきな曖昧の第4回)

私は医療福祉の現場で働いていますが、職場で『ディア・ドクター』の話をしたら、さもありなんみたいな雰囲気で、「ときどき無資格の医者が捕まるけれど、実はいい活動してたりするんじゃないの」なんて言ってました。

職場のスタッフがときおり冗談で互いに言う言葉に、「私が倒れたら何もしないでしばらくはそのまま放って置いてね」。つまり高度な救急処置をして、チューブにいっぱいつながれて、寝たきり状態になることを実感として恐れているわけです。といって、冷たく放置されるのも寂しいものです。

私は介護福祉士として施設で末期の方々のお世話をしていて、ひと月に5名くらいの方を看取ることもあります。そういう中で生の人間として、患者さんやご家族と向き合うことは、プロとして危険なこともあります。生の自分が動揺して、冷静で安定した態度を保てなくなってはマズイのです。そうならないように注意しているうちに、次第に素の自分の心の置き場所が、違うところにズレていく恐さも感じてました。

そこへ「ディア・ドクター」を見て、大いに励まされました。カッコ悪くても、ときにはぶざまでも、もっと私にできることがあるんじゃないかと。それは、結構ちょっとしたことだったりもするのではないかと。まだしばらくは、この仕事を続けられそうと、パワーをもらいました。

糸井重里さんが、『ディア・ドクター』を高く評価していて、西川美和監督と対談をしています。
ほぼ日刊イトイ新聞 - 『ディア・ドクター』のすてきな曖昧
プレゼントに応募したら、「(あしあと)プレスシート当たりました」
とてもステキなプレゼントでした。


ディア・ドクター×西川美和 脚本、画コンテ、出演者インタビュー他を収録した本です。


ディア・ドクター オリジナル・サウンドトラック/モアリズム[CD]


きのうの神さま 映画『ディア・ドクター』から生まれた、もうひとつの物語です。
 
posted by jun at 07:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・DVD・CD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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